2024年4月30日

  • 在学生

大学院 工学研究科 創造エネルギー理工学専攻 博士後期課程 2年 金井李笑さん

金井さんメイン

人類と自然が共生する持続的な社会を実現するために

プロフィール

金井 李笑(カナイ リエ)さん。大学院 工学研究科 創造エネルギー理工学専攻 博士後期課程2年。千葉県立我孫子高等学校出身、中部大学人文学部コミュニケーション学科(現メディア情報社会学科)卒業。現在は福井弘道副学長(中部高等学術研究所長、国際GISセンター長)のもとで空間情報学、GIS(地理情報システム)、デジタルアースを専門分野に研究を行っている。

趣味は読書、映画・美術鑑賞、自宅で育てている観葉植物や身近な生き物の観察、GoProを使って景色などを撮影すること。鳥(シジュウカラ)の様子を自宅の窓から観察したり、観葉植物(ガジュマル)の世話をするのが好きな時間。

自然豊かなキャンパスに惹かれて

金井さんお話中

「幼少期は千葉県の自然が豊かな地域で過ごし、林の中を駆け回っているような活発な子どもでした。その中で土地開発のために年々周囲の自然が減っていくことに心を痛めていました。この頃から『動物も人間も地球という自然の中の一部である』という考えを持つようになり今の自分につながっていると思います。

また、両親からの勧めで高校までは剣道に打ち込んでいましたが、けががきっかけで剣道ができなくなり、自分が本当にやりたいことは何だろうと考えるようになりました。実家を離れて暮らしてみたかったこともあり祖母が住む愛知県内で大学を探しました。その中で中部大学を選んだ理由の一つは、総合大学であることです。自分の関心のある領域だけでなく幅広い分野の研究者や学生と交流できるところに魅力を感じました。都会の喧騒(けんそう)から離れた自然豊かなキャンパスで勉強できることも大きな決め手です。学部時代は人文学部コミュニケーション学科に所属し、社会学を中心に統計学やマスメディアについて学びました」

学部時代の「アジアサマースクール」をきっかけに大学院へ―文系から理系へ転身

金井さんサマースクール
ドローンの操作について学ぶ演習(前列左から二人目が金井さん)
金井さんサマースクール
さまざまな国籍の参加者と

「学部3年生の夏休みに、タイ・バンコクにあるアジア工科大学院で『GIS(地理情報システム)』を学ぶ『アジアサマースクール』に参加しました。3週間ほどの滞在期間中に、GISに関する講義やフィールドワークに参加できるほか、世界文化遺産を見に行く歴史文化体験などのプログラムもありました。一般的な留学プログラムに比べて、さまざまな国の学生が集まることも魅力の一つです。私が参加した2019年度は日本を含めて9か国から参加者が集まり、お互いに英語でコミュニケーションをとりながら共同生活をすることで友情を深めることができました。

この『アジアサマースクール』をきっかけに、GISが環境保全や都市開発、防災、公衆衛生などさまざまな分野で活用されていることを知り、その汎用性の高さに強い関心を持ちました。GISをより深く学び、学部で学んだ社会学(人文学)と融合した研究をしてみたいと考え、学部卒業後は大学院 工学研究科 創造エネルギー理工学専攻に進学しました。しかし、文系と理系では学部時代の講義内容も異なるため理数系の知識が不足していたり、学ぶ環境なども変化したことで最初は戸惑いがありました。現在も分からないことや大変なことはありますが、先生方をはじめ研究室の先輩や職員の方からサポートを受けて研究に取り組むことができています」

大学院での研究内容

金井さん研究内容スライド
研究紹介

「修士研究では、中部地域における人口や土地利用による都市化指標と、植物種数による生物多様性指標を作成し、それぞれの指標との関係性について分析を行いました(スライドの中部地域の生物多様性指標の図)。その結果、里山が広がる中山間地域は植物種数で捉えた生物多様性が特に高いことが明らかになりました。里山が広がる中山間地域は人間社会と生態系が共存するための緩衝地帯です。豊富な生物種が存在する場所であり、人と野生動物との摩擦が生じる場所でもあります。近年、中山間地域の多くは人口減少や高齢化により、里山を管理する人手が不足しています。その結果、里山は荒廃化が進行し、里山に分布する国有種のギフチョウや、ギフチョウの幼虫が食べるカンアオイ類といった多くのシダ植物は急速に数を減らしています。

一方、シカやイノシシ、クマなどの中・大型の野生動物は生息範囲を広げ、人の生活圏に現れて農作物や直接人にも被害をもたらしています。特に、近年急増しているクマの出没はドングリなどの堅果類の豊凶と関連しており、その豊凶は気候変動の影響を受けていると考えられています。気候変動は人間社会の活動が重要な要因となっています。したがって、人間社会と生態系は密接に結びついており、この関係を一体化して現在起きている問題を捉えるべきだと考えています。

私は研究を通じて人間社会と生態系の相互関係を明らかにし、持続可能な社会の実現に向けた方策を提案することを試みています。現在は修士研究を拡大して、より詳細な分析を行っています。例えば、哺乳類などの生物種分布データを用いた環境・生態系指標と、土地利用や人口、その他さまざまな人間社会の活動をGIS上に見える化し、時空間解析を行っています。また、過去から現在までの人と自然との関係性の変化を捉えるために、中部地域を事例として地域文化から関係性を捉えることも試みています。私の学部時代のバックグラウンドを生かし、デジタルアースやGISを中心として、生態学や人文学の知見を取り入れ、文理融合で研究に取り組んでいます」

ギリシャの国際学会に参加

金井さんギリシャでの国際学会
ギリシャ・アテネで行われた国際学会にて

2023年度からは『次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)※』に採択され、SPRINGの支援により研究発表のための英語力や文章力を高めるワークショップなどに参加しています。2023年7月にはギリシャ・アテネで行われた国際学会『The 13th International Symposium on Digital Earth』に参加し、ポスター発表を行いました。博士前期課程の頃はコロナの影響で学会などが全てオンラインだったため、現地での参加は今回が初めてでした。また、この時期のギリシャは気温が45℃に達する猛暑で、今までに経験したことのない暑さを感じました。海外という慣れない環境下で、しかも英語で発表するのは少し緊張しましたが、世界中から集まった研究者たちと意見交換を行うことができ、今後の研究につながる良い経験になりました」

  • 博士後期課程の学生が研究に専念できる環境を整備し、卓越した博士人材の育成や輩出を目指す事業

RA(レジデント・アドバイザー)として留学生と生活

金井さん留学生と一緒に
2022年度 春学期短期留学生と一緒に(右端が金井さん)

「学部3年次と大学院博士前期課程2年次の計2年間、RA(レジデント・アドバイザー)をしていました。RAとは、短期留学生(海外の協定大学からの交換留学生)と同じ寮に住んで短期留学生の生活の支援や宿舎管理の補助をする学生のことです。コロナ禍以前であった1年目とは違い、2年目はまだコロナの影響があり衛生面など気をつけなくてはならないことが多く大変でしたが、他のRAや留学生の協力もあって、お互いに文化交流を深めながら楽しく共同生活を送ることができました。この経験は、国際交流やグローバルな視点を持つ上で重要な基盤となっています」

博士号を持つ研究者として海外でも活躍したい

金井さんプロフィール

「今後は、博士号の学位を取得するために、査読付き論文の投稿を中心に研究活動を進めていこうと考えています。引き続きSPRINGでの活動を通して、複雑な社会課題に対する総合的な視点やコミュニケーション能力など、将来、博士号を持った研究者として活躍するために必要な能力を身につけていきたいです。博士号取得後の具体的な進路はまだ決めていませんが、日本だけでなく海外で働くことも視野に入れています。

後輩の皆さんへのメッセージとしては『自分で考え、常に手を動かしてみよう』ということを伝えたいです。自分で考えて、やってみる。それでもうまくいかない時は、信頼できそうな人に相談してみてください。力になってくれる先生や先輩、仲間が周りにきっといるはずです。自分が好きなこと(嫌いなことも)、面白いと思うことを大切に、中部大学で挑戦し共に成長していきましょう」

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